昨日は吹奏楽アニメ「響け!ユーフォニアム」のスペシャルイベントでした!
実際に声優さんが担当楽器を演奏するイベントがあるので、レッスンをして欲しいとお願いされたのが年明けでした。1回3時間のレッスンが月2回、合計半年も期間があると聞いて、余裕をもって引き受けたのですが、いざレッスンが始まってみたら、何とレッスン当日しか楽器に触らないと知り、一気に絶望の淵に叩き落されました。
毎日数時間の練習が当たり前のクラシック音楽の世界で、月に2回しか楽器に触らないで上達するなんてありえない事なんです。いや、クラシックに限らず何の世界でもそうですよね。
途方にくれた僕はいろんなオーケストラの友人知人に「何か効率の良い練習はないか」「どうしよう」と相談を持ち掛けましたが、「そんな練習方法があるなら俺が知りたい」「そもそも、その企画自体が楽器をナメてるよ」「それでうまくなれるなら我々のやってきた事が否定される」というものでした。どれも正論だと思います。
冷静に考えれば、月2回レッスンしても、2回目というのは言わば入部2日目と一緒。
つまり、2ヵ月レッスンしても入部4日分にしかなりません。
それでもなるべく無駄を端折って練習をしてみましたが、左手の指で弦をしっかり押さえて音程を作るコントラバスは、日々の鍛錬によって指を強くする事が何より大切で、楽器に触らないのは致命的でした。
指を鍛える器具を購入して渡してみましたが、それも効果があるかは疑問でした。
夏に入った頃には、担当者に「このままじゃ無理」と話した事もありました。
どうしようと考え込んでいたら教え子の豊田萌絵ちゃんから「このままじゃまずい。楽器を日常的に練習したいです」との言葉がありました。彼女は小学生時代にトランペットで全国大会に出場していた経験の持ち主で、音楽が甘くない事を知っていましたから、危機感があったのだと思います。彼女のプロ意識を感じ、僕のサブ楽器を彼女の事務所に運び、本番までレンタルする事に決めました。もともと持っている彼女の音楽的センスもあって、そこからはあっという間に上達。管楽器のみんなも、楽器を持ち帰るようになり、途中から一気に可能性が見えたような気がします。
とはいえ多忙なみんな、持ち帰って多少は楽器に触ったかもしれませんが、実際には月2回のレッスンが練習のほとんどだったんじゃないかな。本当の経験者であれば、毎日部活がある吹奏楽部の学生さんと違って、初心者が月2回のレッスンとほんの少しの自宅練習であそこまで演奏するのがどれだけ大変か分かるはずです。
さらに、吹奏楽やオーケストラのステージがどんなものか知ってもらうこと、モチベーションを上げる目的で、佐渡×シエナの演奏会に来てもらったり、僕が出演するオーケストラの演奏会に来て貰ったりして雰囲気を感じてもらう事もしました。
僕はコントラバスの担当でしたが、レッスンの合間に話しているうちに他の楽器担当のみんなとも仲良くなり、それこそ学校のクラスの担任と生徒たちみたいな、そんな空気になっていきました。
曲が決まり、楽譜が届いてからは、みんなの合奏を見るようにもなり、豊田さんと朝井さんが自主練習した動画を送ってもらってチェックしてアドバイスする事もありました。
ユーフォニアムの黒沢ともよちゃんは、一番若いのに最もキャリアが長いこと、そして主役という事もあってか、かなりの緊張感をもって練習に取り組んでいたように思います。結果、本番曲では見事にほとんどの旋律を任せられるレベルにまでなりました。本番当日のリハーサル、サウンドチェックで彼女が音を出した際に、客席にいた洗足学園大学の学生たちが「おお~」とどよめき、「音が綺麗・・・」という感想がもれたのも頷けるところ。夜の部では最後に号泣してましたが、この作品にかける思いがそれだけ深かったのだと思います。
テューバの朝井彩加さんは、ずっと陽気で明るいムードメーカーでした。失敗しても決してめげず、常に体育会系のノリでメンバーを笑わせる、そんな存在。テューバの技術もかなり早い段階から安定し、音符の長さや音程、ダイナミクスを要求出来るところまで上達していきました。曲が出来てからは萌絵ちゃんとスケジュールを合わせて自主的に集まって朝練をするなどの積極性も見せ、今回のアンサンブルを支えました。この人の気持ち良い性格、大好きです。
楽器練習で最も苦戦したのがトランペットの安済知佳さん。僕も昔トランペットをかじった事があるのですが、そもそも音を出すのが大変な楽器で、初心者には難易度も高かったと思います。すぐに口がバテてしまい、弱音を吐くことも多く、先生に加えてトランペット経験者の萌絵ちゃんが自分のマウスピースを貸してあげたりと、みんなで協力して応援していました。しかし、本番当日最も底力を発揮し、袖で見ていた我々を驚かせたのもまた安済さんでした。特に最後の本番では想像も出来なかった柔らかい音色を出しており、一緒に見ていたトランペットの先生も思わず涙していました。
最後に担当した豊田萌絵ちゃん。これまでに書いてきた通り、経験者という事もあって音楽的なセンスは文句なし。根性もあって、生徒としては非常に優秀だったと思います。ずっとマンツーマンでレッスンをしてきたので、いろいろ話しているうちに、音楽一家の萌絵ちゃんと僕の間に共通の友人知人が居ることも分かって盛り上がった事もありました。音楽業界、狭いです。そして彼女が本番で聴かせてくれた音色は、100点満点でした。出来ることならこれからもコントラバスを続けて欲しいなあ。
そんな苦労もあってついに迎えた昨日の本番、ヤバかったですね…
袖で彼女たちがステージに出るのを見送ったと同時に涙。
娘を嫁に送り出す父親の気持ち。
その後はこちらまで緊張して軽い震えすらありましたが、さすがはライブをこなす最近の声優さん、本番が一番素晴らしい出来だったと思います。そして、演奏が終わって涙を流す彼女たちを見てまた涙。
そして何気なく公演パンフレットを読んでいたら、豊田萌絵ちゃんのこんな言葉がありました。
「吹奏楽部に入部するなら何の楽器が良いですか」という質問に対して
「今はやっぱりコントラバス」
!!!何より嬉しい言葉です。
いやあ、ついに終わったなあ。
半年間に及ぶ旅路が終わりました。
いま、佐渡×シエナのツアーが終わった時のような高揚感と寂しさが入り混じった気持ちでいます。
まずは素晴らしい演奏をしてくれたキャストのみんな、ありがとう。
そしてコントラバスレンタルの岩田哲五郎商店さん、僕がリハーサルでレッスンを出来なかったとき代理を務めてくれた東京都交響楽団の佐野さん、および関係各位の皆様に感謝したいと思います。
せっかくここまで弾けるようになったから、この企画に続編があればいいのに… 笑
あ、そうそう、改めて宣伝です。
響け!ユーフォニアムのキャラクターソングの北宇治カルテット四重奏、僕が全てコントラバス演奏を担当させて頂いております。
宜しければご視聴下さい。
レコーディングの依頼を受けてスタジオに行ったらこの楽譜が置いてあったという、凄い偶然でした 笑
コメントをお書きください