ジャパンバンドクリニックでコントラバス講座の講師を務めてきました。
「日本吹奏楽指導者クリニック」という名前の通り、全国の吹奏楽部顧問など指導者対象のクリニックで、北海道から沖縄まで1400人もの指導者が集まる日本最大規模のイベントです。こちらで私は、「コントラバスをどうやって生徒に教えるか」を先生方に伝えるコントラバス講座を担当したという訳です。
私がこのクリニックの存在を知ったのは、恥ずかしながら昨年の事でした。
シエナ・ウインドオーケストラでファイナルコンサートに出演したのですが、その規模の大きさに驚かされました。
アクトシティ浜松をほぼ全館貸し切って各会場で様々な講座が行われていました。
楽器別講座の他にも、指揮法や作曲法、合奏に使用する機械の使用法講座、強豪校の一日の練習を再現する講座など内容は盛り沢山。展示ブースに行けば吹奏楽関連の書籍や録音がズラリと販売されていて、各音楽大学やレコード会社もブースを出しており、楽器の試奏なども出来てしまいます。
夜になるとイベント会場に1000人からの先生方が集まっての大宴会。
マグロの解体ショーやジャズバンドの演奏を横に、そこかしこで名刺交換と記念撮影の嵐。
こうしたイベントがある事に驚いていたのですが、まさかこの場で翌年講師を務めるとは夢にも思いませんでした。
依頼があった時は驚きましたが、吹奏楽界でのコントラバスに対する理解度の低さを考えると、少しでも役に立ちたいと思い引き受けました。
1年も準備期間があるから、とのんびり構えていたのですが、早い段階で講座に使う資料を提出してくれと連絡が来て目が覚めました。
ちょうど教則本を2冊出版したばかりでしたし、そちらの内容を引用しつつ、教則本も購入してほしいので情報を小出しにして・・と、少し商売っ気も出しながら資料を提出。いやらしいやり方に思われるかもしれませんが、吹奏楽部に行くと教則本すら与えていない学校がよくあるので、1校に1冊で良いから購入して欲しいと考える気持ちはご理解頂けると嬉しいです。
直前になって何となく資料を読み上げてみて1時間に収まる事を確認し、いざ会場へ行ったのですが、12時半に浜松に到着して、手続き等済ませて14時からいきなり初回の講座。
ここで一つ告白してしまうと、私は人前で話をする事が大の苦手です。
よく楽器クリニックなどで「講師の先生、一言ご挨拶を」と促される一言ですら嫌で、本当に軽めに済ませる事が多いのですが、今回は人前で話し慣れている全国の顧問の先生方相手に、1人で1時間みっちり話さなければならないとあって、初回講座の緊張感はかなりのもでした。
案の定、声は上ずり、言葉を選ぶ余裕もなく、吐きそうな緊張感のなか噛み倒して初回の講座が終了。
「楽器を演奏するほうがよほど気が楽だ・・」と思いつつ、ガックリ肩を落として部屋の外に出たら、昨年テューバの講座を担当した音大の後輩に会いました。「いやあ、緊張で噛み倒しちゃったよ」と話すと、「分かります!初回はヤバいですよね。でも、2回目から一気に力抜けますよ!」とアドバイス。
実際、初回講座から僅か1時間後の2回目の講座ではかなり余裕が出てリラックスする事が出来ましたし、最終日朝からの3度目の講座では「少し笑いを取りに行こうか」と考える余裕すらありました。人って凄いですね。
本当に悔やまれるのは、講座を録画した資料が参加者に販売されるのですが、収録されたのが緊張マックスの初回講座だったこと。前述の後輩とも、初めて講座を開く講師の場合、収録は2回目以降にして欲しいよねと話していました。思い返しても初回は恥ずかしくなる出来でした・・・
実際講座には各回40~60人くらいの先生方にお越し頂き、多くの方と講座終了後にお話させて頂く事も出来ました。
今でも2点気にかかっているのは、沖縄からいらした先生に「室温が40℃くらいになるが楽器に良くないと思う。どうしたら良いか」と質問をされて良い回答が出来なかったこと。エアコンをつける、部屋に断熱対策をするなどいくつか頭には浮かんだのですが、現実的に予算の事などを考えて答えに詰まってしまいました。でも、今でも良い答えは出ていません。
もう一つ「教則本を購入するのでサインして欲しい」と言われた先生がいらっしゃったのですが、その後展示ブースを歩き回ってもお会いする事が出来なかったのが残念でした。先生、もしこちらをご覧になられていたら、本を送って頂ければサインして返送致します。
さて、最初は本当に話すのが嫌だったんですが、講座を進めるにつれ「こうして少しでも役に立てるならまたぜひやってみたい」と考えが変わってきました。地域などでコントラバス講座をお考えのかたがもしいらっしゃいましたら、ぜひご相談頂ければと思います。
そして夜の交流会では本当に多くの方と初めてお話する事が出来ましたし、多くの友人、プレイヤーの方と再会を果たす事が出来ました。大学の同級生、後輩たち、そしてクリニック終わりには高校吹奏楽部の同級生とも食事をしました。「自分が多くの人に支えられ、人との絆によってここまで来れている」という事を改めて強く感じました。
再会といえば往復の東京駅でのこと。
バンドクリニックに向かっているとき、新幹線に乗ろうとホームにいたら「先輩?」と話しかけられ、振り向いたら大学時代のヴァイオリンの後輩。何と行く先も同じ浜松で、彼女はミュージカルのお仕事だということでした。まあ、東京駅でプレイヤーに会うのはそう珍しくないのですが、帰りは驚きでした。
東京駅で楽器を持って歩いてたら「すみません!」と駆け寄ってくる警察官。何か怪しかったかな?と思いつつ顔を見たら、高校吹奏楽部の後輩でした。サミットの影響で音楽隊まで警備に駆り出されているそうです。あまりに久しぶりなんで写真を撮りたかったんですが、さすがに警備中はマズいかと思って差し控えました。「最後に握手お願いします!」とおもむろに手袋を外し手を差し出す後輩、変な顔でこちらを見る通行人たち。警察官に握手求められてる大きな楽器持った人、確かにいろいろと不思議な光景だった事でしょう。
クリニックも含め、2日間で多くの人に再会する気の流れになっていたのかな?
緊張もありましたが、それ以上に嬉しい出来事に包まれたバンドクリニックでした。
また講座をやらせて頂ける機会があるなら、今度はぜひ前向きに挑戦したいと思っています。
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